2026年ワールドカップ、グループステージ初戦。日本代表が対峙するのは、欧州屈指のタレントと戦術的成熟を兼ね備えたオランダ代表だ。
初戦は単なる1試合ではない。大会の趨勢を左右する「確率分布の起点」であり、ここで勝点を奪えるかどうかは、決勝トーナメント進出確率に直結する。
では、日本に勝機はあるのか。
結論から言えば、「明確に存在する」。
本稿では、オランダ代表の戦術構造を分解した上で、日本代表が取り得る現実的な攻略ルートを提示する。
オランダ代表の基本システム
2026年3月の親善試合やUEFAネーションズリーグでの起用傾向に基づいた有力なスタメンはこちら。

オランダ代表は4-3-3を採用。各ポジションに実力者を揃えた構成となっている。
最終ラインのゴールマウスを守るのはブライトン所属の守護神、フェルブルッヘン。足元の技術にも優れ、ビルドアップの起点としても重要な役割を担う。
ディフェンスラインには、右からデンゼル・ダンフリース、ファン・ヘッケ、キャプテンのフィルジル・ファン・ダイク、そしてミッキー・ファン・デ・フェンが並ぶ。高さとスピード、対人能力を兼ね備えた堅牢な最終ラインだ。
中盤は攻守の要となる3枚。ゲームメイクを司るのはマンチェスター・シティのティジャニ・ラインデルス。その両脇を、バルセロナのフレンキー・デ・ヨングと、リバプールのライアン・フラーフェンベルフが固める。展開力と推進力を兼備した、流動性の高いユニットとなっている。
シャビシモンズが怪我でワールドカップの欠場が決まったのは残念なニュースである。
前線は破壊力抜群の3トップ。左にリバプールのコーディ・ガクポ、中央にメンフィス・デパイ、右にローマのドニエル・マレンが配置される。個で打開できる能力を備えている。
要注意プレイヤー

オランダ代表は伝統的に高い技術と戦術眼を兼ね備えていますが、現在のチームで特に日本代表や対戦相手が警戒すべき3名について、それぞれの強みと役割を解説します。
1. ヴォウト・ベグホルスト (Wout Weghorst)
「試合の流れを変えるスーパーサブの重戦車」
- プレースタイル:197cmの巨躯を活かしたターゲットマンです。単なる「高さ」だけでなく、前線からの猛烈なプレッシングと、泥臭くゴールに押し込む執念が持ち味です。
- 要注意ポイント: スーパーサブとしての驚異。試合終盤、パワープレーが必要な場面で投入されると、その圧倒的なフィジカルで相手DFを疲弊させます(2022年W杯アルゼンチン戦の劇的2ゴールが象徴的です)。2026年3月に行われた日本対イングランドとの親善試合でも、身長201センチのダン・バーンと、身長194センチのマグワイアーが出てきたときはセットプレーで本当に手を焼いている様子でした。
- 献身性:大柄ながら守備の意識が非常に高く、相手のビルドアップを執拗に追い回します。
- 近況 (2026年時点):アヤックスなどのクラブで経験を積みつつ、代表では「困った時のベグホルスト」として依然として不可欠なオプションとなっています。
2. コーディ・ガクポ (Cody Gakpo)
「万能型の攻撃リーダー」
- プレースタイル: ウィング、トップ下、センターフォワードまでこなす多才なアタッカー。190cm近い身長がありながらスピードとテクニックを兼ね備えています。
- 要注意ポイント: 左サイドからのカットイン。左から中央へ切り込み、右足で放つ鋭いシュートは世界トップクラスの精度を誇ります。
- 大舞台での勝負強さ: 代表戦での得点率が高く、要所でゴールやアシストを記録する「決定的な仕事」ができる選手です。
- 近況 (2026年時点): リヴァプールで主力として定着。2025-26シーズンも多くのゴールに関与しており、オランダの攻撃陣で最もマークすべき中心人物です。
3. デンゼル・ドゥンフリース (Denzel Dumfries)
「サイドを支配する爆走サイドバック」
- プレースタイル: 圧倒的な身体能力と推進力を持つ右サイドバック(またはウィングバック)。「サイドバックの皮を被ったフォワード」と呼ばれるほど攻撃参加の頻度が高い選手です。
- 要注意ポイント: 大外からの飛び出し。逆サイド(ガクポ側など)からのクロスに対し、ファーサイドで圧倒的な高さと強さを持って飛び込んでくるプレーは、相手DFにとって悪夢です。
- フィジカル・デュエル: 1対1の強さはもちろん、空中戦でもFW並みの強さを発揮します。
- 近況 (2026年時点): インテルでセリエA優勝などを経験。2026年4月には1試合2ゴールを記録するなど、DFながら得点力にもさらに磨きがかかっています。
日本代表に勝機がある理由

現在のチーム状況を冷静に分析すると、日本が歴史的勝利を収める「勝機」は十分に見えてきます。
日本代表がオランダを撃破できる3つの論理的根拠を解説します。
ロナルド・クーマンの「硬直した采配」と無策
現在のオランダ代表を率いるロナルド・クーマン監督は、良くも悪くも「伝統的なオランダの形」に固執する傾向があります。
• 戦術の引き出しの少なさ: 欧州予選でも見られたように、プランAが封じられた際の修正力が乏しく、交代策が後手に回る場面が散見されます。
• 日本側の対策: 森保一監督率いる日本代表は、カタールW杯以降、相手のシステムに合わせて柔軟に形を変える「カメレオン戦法」を確立しています。クーマンの硬直した采配に対し、日本が試合中に戦術的優位を確保するのは難しくないでしょう。
深刻な「CFタレント不足」とデパイの衰え
かつてのファン・バステンやファン・ペルシのような、世界を震撼させる絶対的なストライカーが現在のオランダには不在です。
• メンフィス・デパイの現状: 長年エースとして君臨してきたデパイですが、2026年現在はブラジルのコリンチャンスでプレーしており、全盛期の爆発的なスピードや切れ味は影を潜めています。依然として技術は高いものの、日本の統率されたディフェンスラインを単独で切り裂く脅威は減退しています。
• プランBへの依存: 先述のベグホルストによる「高さ」という単調な攻めに頼らざるを得ない状況は、日本にとっては守備の的を絞りやすい要因となります。
「3バック vs 4バック」の噛み合わせが生む、日本の翼の解放
オランダが伝統の4-3-3(4バック)で来るならば、日本の3-4-2-1(3バック)は天敵となります。
• ウイングバックが急所に刺さる: オランダのサイドバック(特に攻撃的なドゥンフリース)が上がった裏のスペースを、日本のウイングバックやシャドーが徹底的に突くことができます。
• 守備時の5バック化: オランダの3トップに対し、日本は3CB+両WBで実質5人で対応できるため、数的なズレが起きにくく、ガクポら攻撃陣を窒息させることが可能です。
ただし、理想を捨てて勝負に徹する戦い方をされるとヤバい
ここで想起されるのが、2014年ワールドカップでのドイツ代表の戦い方です。
オランダ代表にこの戦い方をされると、極めて厳しい試合となるでしょう。
2014年ブラジルW杯で頂点に立ったドイツ代表。その戦いぶりを振り返ると、かつての「美しいパスサッカー」へのこだわりを捨て、開催地・南米の過酷な環境に適応するために選んだ「究極の現実主義」が見えてきます。
当時のドイツがどのようにして欧州勢初の南米開催大会制覇を成し遂げたのか、その戦術的転換を紐解きます。
理想を捨てた「4CB」という盾
大会序盤、ヨアヒム・レーヴ監督が下した決断は衝撃的でした。バックラインの4人全員にセンターバックを本職とする選手を並べ、守備の安定と高さを最優先したのです。
これは、ブラジルの高湿度と酷暑の中、サイドバックに激しい上下動を強いるのはリスクが高いという判断、そして南米勢の鋭いカウンターを力でねじ伏せるための策でした。華麗なポゼッションに溺れず、まずは「失点しないこと」を土台に据えたのです。
「縦の速さ」と「セットプレー」への回帰
かつてのドイツらしい、あるいは当時のバルセロナを彷彿とさせるような細かなパスワークは影を潜め、攻撃はよりシンプルで効率的なものへと変貌しました。
相手の隙を見逃さない鋭い縦への意識に加え、勝負を決めたのは「セットプレーの破壊力」です。準々決勝のフランス戦で見せたフンメルスのヘディング弾に象徴されるように、高さとパワーを活かした「縦ポン」に近い合理的な攻めが、膠着した試合を動かす鍵となりました。
結論:勝つために「持たざる者」の強さを取り入れた
準決勝のブラジル戦(7-1)の歴史的大勝が目立ちますが、その本質は決勝のアルゼンチン戦に凝縮されています。延長戦までもつれ込む死闘を耐え抜き、一瞬のチャンスをゲッツェが仕留めて1-0で勝利した姿は、まさに「守り勝つドイツ」そのものでした。
自分たちのスタイルを押し通すのではなく、環境と相手に合わせて最も勝率の高い戦い方を選択する。2014年のドイツ代表が見せたのは、プライドを捨ててでも勝利を掴み取る、王者の「適応力」だったのです。
あの決勝戦、メッシを擁するアルゼンチンの猛攻を、ドイツの肉壁が跳ね返し続けた120分間は、まさに「守備の勝利」を象徴する一戦でした。
まとめ
本稿で見てきた通り、オランダ代表は依然として個の質・フィジカル・戦術理解度のいずれにおいても世界トップクラスの総合力を有するチームであり、日本にとって「格上」であるという構図は揺るがない。しかし同時に、その構造は決して無欠ではなく、戦術の硬直性やCF問題、そしてシステム上の噛み合わせといった“攻略可能な歪み”が確かに存在する。
日本代表が勝点を奪うための鍵は明確だ。可変システムによる戦術的優位の確保、ウイングバックを軸としたスペース攻略、そして試合展開に応じたゲームマネジメント。この3点を高い再現性で遂行できれば、勝利は現実的な射程圏内に入る。
ただし、オランダが理想を捨て、2014年ドイツのような徹底した現実主義――すなわち「強度・高さ・効率」に全振りした戦いにシフトしてきた場合、試合は一気に五分、あるいはそれ以上に厳しい様相を呈する。特に終盤のパワープレーやセットプレー対応は、勝敗を分けるクリティカルファクターとなるだろう。
結局のところ、この一戦は「スタイルの優劣」ではなく、「適応力と意思決定の質」の勝負である。日本が自らの強みを押し通すだけでなく、相手と状況に応じて最適解を選び続けられるか――その戦術的成熟度が問われる90分になる。
そしてそれが実現したとき、日本が歴史を動かす可能性は、決して低くはない。


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